京菓子寸話「牛蒡と味噌」

牛蒡と味噌の画像

新年に宮中で祝う餅に菱葩(ひしはなびら)というのがあります。薄く、円形にのばした白餅に、味噌と牛蒡(ごぼう)と紅色に染めた菱餅をのせて、牛蒡を軸にして2つに折り重ねたものです。これを「おはなびら」とも呼びます。

平安時代の宮中で行なわれた元日節会に、歯固(はがため)といって鏡餅、大根、押鮎(おしあゆ)、橘などを食べて歯の根を固め、齢(よわい)を延べる祝儀がありました。中国から伝えられたしきたりといい、長寿は歯を丈夫にすることでかなえられるという考えは、齢という漢字の成り立ちを見ても判ります。この歯固の品が、後世、菱葩に変化したわけです。

年魚である押鮎が牛蒡になり、新たに味噌が加えられました。

押鮎というのは鮎の押鮨(おしずし)のことで、鮎はもともと年魚と呼んで、お正月の供物にしました。牛蒡の歯ざわりは歯固めの趣旨にかない、その香りのよさは餅に独特の風味をそえます。

牛蒡は平安時代の初め、大陸から渡ってきたのですが、当初は食用ではなく薬用に限られ、牛蒡という漢字も漢方薬の名であったもので、それがいつの間にか食用になりました。牛蒡は食物繊維が多く含まれ腸内環境を良くするだけでなく、ミネラルも豊富でポリフェノールなどを含む理想的な健康食品です。

味噌は、いうまでもなく、たんぱく質の大豆と炭水化物の米や麦に塩を加えて混ぜ合わせ、コウジカビの酵素作用によって発酵、熟成させた調味料です。それ自身、たんぱく質や糖質にすぐれ、からだに必要な塩分やビタミン類を備えているばかりでなく、食物の「味」をつくり、「味」を引き出す絶妙の働きをします。味噌は醤油とともに、東洋の智恵が生みだした世界で最もすぐれた「味の結晶」であり、調味料であるといえるでしょう。

この菱葩が新年の菓子となったのが、京の花びら餅で、餅のかわりに白の外郎(ういろう)や求肥(りゅうひ)に味噌餡や紅餡、牛蒡を入れて包み、ほんのりと紅色がすけて見えて、いかにも京らしいあでやかな正月気分をかもします。初釜の茶菓子として親しまれています。

鶴屋吉信では花びら餅を、代々「御所鏡(ごしょかがみ)」の銘で謹製しております。

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