京菓子寸話 亥年の縁起

亥年の縁起

平成31年の干支は亥。十二支はそれぞれ動物でも表しますが亥は猪、イノシシです。豚の祖先で、偶蹄目イノシシ科のほ乳類。アジア、ヨーロッパに広く分布します。
太い胴に首も四肢も短く、口の先がきわめて長いのが特徴です。歯は鋭く雄の犬歯は上顎下顎ともによく発達して終生伸び続ける鋭い牙になっています。体毛は黒褐色で堅く、くびから背にかけて長い毛があって怒ると立つので「怒り毛」といいます。食べ物は雑食性で、人里へ出没しては芋畑や稲を食い荒らすので農家の嫌われ者です。
「のたを打つ」といって泥の中に寝ころんで体中に泥を塗る習性があります。行動は夜行性で夕刻から早朝にかけて食物を求めて歩き回ります。性質は凶暴で、しばしば山野から町に出てきて人を襲うことも珍しくありません。また、多産で初夏の頃、5〜6匹、ときには11〜12匹の子を産みます。
猪の子には体に独特の縦じまがあって瓜のように見えるので「うり坊」と称します。このように昔から怖がられた動物ですが、兼好法師の『徒然草』第14段に和歌の優雅さによってあの恐ろしい猪も歌に詠んで「ふす猪(い)の床といへば優しくなりぬ」といっています。「ふす猪の床」とは猪が枯れ草を集めて寝床にすることで、その姿を想像すれば微笑ましくなります。
イノシシはいったん走り出したら方向転換ができないなどといい、猪突猛進といって身の危険をかえりみず敵中に突進する勇敢の武者を猪にたとえます。
平安京遷都を桓武天皇にすすめて造営大夫として都の建設に功績があった和気清麻呂(わけのきよまろ)は、他国に流されたとき猪が守護したという伝説があります。清麻呂を祀る京の護王神社の狛犬は狛犬ならぬ狛猪になっています。護王神社は亥子(いのこ)祭が知られますが、上代、宮中の年間行事の「玄猪(げんちょ)の儀」といって旧暦10月亥の日に新米で亥子餅を作って、秋の収穫を感謝する行事がこんにちに伝えられ、猪の多産にあやかり豊穣と幸せの願いがこめられています。
鶴屋吉信では縁起のよい亥の新年を祝う恒例の干支菓子を数々そろえております。