京菓子寸話「道明寺」

道明寺の画像

春を味わう桜餅、さらに端午の節句で祝う柏餅、いずれも道明寺(どうみょうじ)を原料としています。

餅の味わいと香りをそのままに餡(あん)を包む風味豊かな生地。上質の餅米を甑(こしき)で蒸し上げて寒気にさらし天日で自然乾燥させたものを糒(ほしい)といいますが、それをさらに石臼で粗挽きにして粒をそろえたり、粉にしたりして好みの生地に使い分けます。正しくは道明寺糒といいますが、菓子職人の用語としてただ単に道明寺と呼び、また道明寺種、道明寺粉ともいって和菓子のすぐれた風味をつくるのに欠かせない材料なのです。

糒は乾飯(ほしいい)とも「ほしかれい」ともいって蒸した米を自然乾燥させたもので平安時代の昔からありました。湯や水にひたして戻したり、そのまま食べたりしたものです。昔は保存食としてはもちろん、旅の携行食や戦の兵糧としてさかんに利用しました。それがどうして道明寺といわれるのでしょうか。

道明寺は大阪府藤井寺市にある真言宗御室派の有名な尼寺で、聖徳太子の尼寺建立の御願を受けて土師(はじ)氏が創建したと伝えます。土師氏の一族である菅原氏が氏寺として守り菅原道真の伯母覚寿尼(かくじゅに)が住職を務めました。

道真が左遷されて太宰府に流される折、伯母を訪ねて寺を訪れたという伝説は歌舞伎『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』の舞台にもなっています。 本尊十一面観音は平安時代の作で国宝です。

あるとき寺内の天満宮に供えた撰飯(せんぱん)を尼僧が忘れて放置したところ自然乾燥して美味しい糒になりました。そのことにヒントを得て代々の住尼が名物の糒をつくるようになったといいます。江戸時代をつうじて道明寺糒と仙台糒とが上質の糒として全国に知られ、いまや道明寺は糒の同義語にまでなったというわけです。

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