京菓子寸話「梅」
梅は、春にさきがけて咲く花としてそのめでたさが古来よろこばれてきました。梅花は春だけでなく、夏の清涼感をかもしだす貴重な風物として日本文化のなかに深く根をおろしているといえるでしょう。
梅はバラ科サクラ属の植物で原産地は中国の四川省から湖北省にかけての山岳地帯といわれ、日本には奈良時代以前に最初は薬用として伝えられたといいます。中国では熟れかけた梅の実を籠に盛り、煙で燻して薫製にし乾燥したものを「烏梅(うばい)」と呼び薬用としました。解毒、咳止め、胃散過多症、下痢止め、食欲不振などに効くといわれます。平安時代に成立した『本草和名(ほんぞうわみょう)』で「烏梅(うめ)」としているのがこれです。また『和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)』には梅を「宇女(うめ)」「牟女(むめ)」と表しています。中国では梅の実は薬用とともに保存食とされ、塩漬けにしてその浸出液である梅酢は貴重な調味料として用いられました。そこから「塩梅(あんばい)」の語が生まれたのでした。
梅の実の酸味はクエン酸で若干のリンゴ酸も含んでいます。その他タンパク質、脂質、灰分、ナトリウム、鉄、ビタミンAなど多くの栄養に富んでいます。梅は食用としての実梅と、花を鑑賞するためのものとに分かれていて、およそ300種の品種があります。
日本の食卓に欠かせない梅干しは、相当古くからつくられていたらしく、室町時代の『庭訓往来(ていきんおうらい)』には、梅干しのことが見えています。果肉を裏ごしにして「梅が香」や「梅びしお」にして菓子としたことも古い文献で知られます。
鶴屋吉信のお菓子にも、夏の定番冷菓・涼涼の「梅まろ」に、梅が使用されています。